ヒサルキとは?2chの怖い話?正体や事件の真相は?
ヒサルキとは?2chの怖い話!何者?
「ヒサルキ」という言葉を聞いたことがある人は少なくないのではないでしょうか。「ヒサルキ」は2chで話題になった謎の存在のことです。
「ヒサルキ」とは一体なんなのか、噂されている概要をご紹介します。
ヒサルキの2chの体験談の概要
「ヒサルキ」がネット上で初めて登場したのは、2003年2月13日のことでした。
匿名掲示板の2ch(2ちゃんねる)のオカルト版にて、次のような書き込みがあったのです。
「保育園で保母さんをやっている友達に聞いた話」ということで始まり、その友達が働いている保育園の柵の杭の先がとがっていて、そこに生き物が串刺しになっていることがよくあったそうです。
お寺も兼ねている保育園だったので、園児以外にも人の出入りが多く、小学生もよく遊んでいたため誰がやっているのか予想がつかなかったとのこと。
立て続けに続いたため園児に何か知っているか聞いてみたところ、『「ヒサルキ」だよ。』と答えたものの、その「ヒサルキ」とは何なのかは何も分からなかったということです。
この話が出た後、似たような体験談が複数ネット上に浮上しました。
体験談に書かれた事実があった時期や場所などはバラバラだったものの、共通点が多い体験談がいろいろな掲示板に書き込まれて話題になりました。
ヒサルキの呼び方はいろいろ?
「ヒサルキ」についての体験談では、「ヒサルキ」ではなく違う呼び方をされていたケースもたくさんありました。
以下のようなものがあります。
- イサルキ
- まいまい
- きらきらさん
- キヒサル
- ヒヒサル
- ヒサル
- ヨウコウ
- ヒサユキ
「ヒサルキ」と似ている「イサルキ」や「キヒサル」、「ヒサユキ」などの呼び方の他にも、「まいまい」や「きらきらさん」など、全く異なる呼び方もあります。
ヒサルキの特徴
異なる呼び方も多い「ヒサルキ」ですが、「ヒサルキ」関連だと思われる体験談には以下のような共通の特徴があります。
- 人や猿を操る(憑依する)謎の存在
- ヒサルキに操られる(憑依される)と生き物を無残に殺したり、食い散らかしたりする
- ヒサルキを見てはいけない、目をつぶされる
ヒサルキはとても恐ろしい存在として語られ、人知を超えた何かである、また関わってはならないとされる場合が多いです。
ヒサルキのエピソードまとめ!
ここからは、「ヒサルキ」に関するネット上に上がった体験談についてご紹介していきます。
同じ話と思われる話を複数の人が述べているものも複数ありますのでまとめてご紹介していきます。
保育園に出たヒサルキ
これは、先にもご紹介した「ヒサルキ」の初出の話です。先ほどは概要をご紹介しましたが、詳しくご紹介します。
2003年2月13日の投稿。主は、最近、保育園で保母さんをやっている友達に聞いた話ということで話し始めました。
友達が保母さんをしている保育園はお寺がやっている保育園であり、そのすぐ近くにはお墓があったそうです。
お墓に子どもたちが入っていたずらしてしまわないように、保育園の周りには柵が張り巡らされていて、その柵の杭の先には虫やトカゲが串刺しになっていることがよくあるんだとか。
園児の仕業という可能性の他にも、お寺もやっている保育園のため人の出入りが多く、小学生もよく遊んでいる状況だったため、犯人は分からなかったんだそうです。
虫やトカゲが串刺しになっているということで、もしかすると鳥など動物の仕業なのかもしれないという話もあり、それほど大人も気にしていなかったとのこと。
そんなある日、柵にモグラが刺さっていたことがあり、寺のお坊さんである園長先生が片付けたところ、次は猫が突き刺さっていたそうです。
さすがに酷いということで、保育園の保母さんやお寺のお坊さんたちは誰の仕業なのか、どうしたらいいのかという話し合いをしました。
しかし犯人は誰なのか見当もつかず、また予防する方法も考えつかず、そのままになってしまったそうです。
しかしまた後日、友達が出勤した際、保育園で飼っていたウサギが突き刺さっているのを見つけました。
早朝にお坊さんがお墓の掃除に行った時にはなかったということで、その日たまたま友達より早く来ていた子どもに、何か見たかと聞いてみたそうです。
するとその園児は「『ヒサルキ』だよ。」と一言答えました。
「ヒサルキ」とは何なのか聞きましたが、その園児は何なのかをうまく説明できなかったそうです。
そこで、友達は後で登園してきた子ども達にも「ヒサルキ」について尋ねてみましたが、同じくみんな「ヒサルキ」をしっていたものの、何者なのかは説明できませんでした。
さらに、その日保育園で育てていたウサギが死んでしまったということを、子ども達はあまり悲しむ様子もありませんでした。
なんとなく「しょうがない」というような雰囲気だったそうです。
「ヒサルキ」について園児たちの親にも聞いてみましたが、園児の親は「ヒサルキ」という言葉も、存在も誰一人として知りませんでした。
何かのキャラクターでもありませんでした。
保母さんたちと「ヒサルキ」について話をしていると、ある保母さんが昔にそんな名前の絵を見たと語りました。
子どもが描いた絵はその子に返すため園には残っていませんでしたが、その保母さんはその絵を描いた子の名前を憶えていました。その子は、その保母さんの家の近所に住んでいた子でした。
「その子に聞いてみたらよいのではないか」と友達が言ったところ、その保母さんは「引っ越した。その引っ越しが変だったんで、覚えてる。」と言いました。
その子は挨拶もなく急に引っ越してしまったんだそうで、その子の家が引っ越す際に、その子が両目に眼帯をして車の中に座っていたところを見たそうです。そこに引っ越したのかは分からないということでした。
保育園の方は、その後に鶏が串刺しになってしまうことがありましたが、それ以降「ヒサルキ」によるような事は特に起こらなかったそうです。
犯人がいるのか、また「ヒサルキ」とは何なのかも分からずに終わってしまったということです。
この話に関連しているのではないかという話がもう1つネットに上がっていたのでこちらもご紹介します。
これは、主の叔父さんが遭遇した話ということです。
主がお盆に実家に帰った際、近所の叔父さんも来ており、その際に主は「ヒサルキって何だか知ってるか?」と聞いてきたんだとか。
その叔父さんは保育園の掃除などをバイトでしており、ある時動物の死骸が相次いで見つかり、保育園の先生に「なぜこんなに動物の死体ばかりたくさん出るのか」と聞くと、先生は「園の隣の墓地に捨てられていた」と答えたそうです。
すると先生が叔父さんに「ヒサルキって知ってますか?」と聞いてきました。叔父さんが「知らない」と答えると、「子どもがヒサルキのせいだと言っているが、誰も知らないんです」とのことでした。
叔父さんはそれが気になり、主に「インターネットで調べてくれ」と言いました。
主は、先にご紹介した保育園の保母さんからの話を見つけ、もしかして叔父さんの話と同じものなのではないかと思ったとのこと。
叔父さんに、子どもに聞きこんでみるように頼めというレスが付き、主は叔父さんに電話をしてみることにしました。
叔父さんは、掃除のバイトをしているだけで保育園の先生ではないため、子どもと直接話せるかは分からないものの調べてみるということでした。
主は、「ヒサルキ」というのは「ヒサユキ」などの人名の聞き間違いなのではないか?というのを調べてくれとお願いしたそうです。
叔父さんによると、「ヒサルキ」は「ヒサルキ」であり聞き間違いではなさそうだということでした。
保育園の先生によると「ヒサルキ」という言葉に聞き覚えがないので、先生たちは複数の園児に、聞き間違いだろうと何度も聞き直したんだそうです。
しかしやはり「ヒサルキ」だということでした。
近所に「ヒサユキ」や「ヒサウチ」など似たような名前の人物がいたかどうかは調べてもらっていないそうです。
ただ、殺された動物の中には園のうさぎがいました。
また、叔父さんは子どもたちと話をしようとしてみたものの、叔父さんが行く時間は遅いので、小さい子ばかりが残っており、うまく話ができなかったとのこと。
また、この保育園があるのは桑名市であるということを主が明かしています。
主は、後何か聞いとくことありますか?と質問しました。
その後、「こういうの見つけたけど、時期や場所的にはどうなのかな?」というレスが付き、紹介されていたのは以下のようなニュースでした。
2001年11月27日の朝日新聞に掲載された記事でした。内容は以下のとおりです。
桑名市下深谷部の市立深谷小学校で25日の朝に、子どもたちが飼育していた15匹のウサギのうち12匹が殺されており、残る3匹も姿が見えなくなったため桑名署が器物損壊容疑で調査中とのことでした。
25日の午前8時頃、飼育当番の教諭と5,6年生の飼育委員2人が餌やりに来ると、小屋の入り口の扉が開いていて、11匹が小屋の中で、1匹が小屋の外で死んでいたそうです。
小屋の入り口には数字を合わせて開くタイプの鍵が取り付けてあったものの、鍵は開いていたとのこと。
24日の朝の餌やりでは異常はなく、当日運動場では午後4時頃までスポーツ少年団が野球の練習をしていました。
そのため、署では24日の夕方から25日の朝方までの間にうさぎたちが殺害されたとみているとのこと。
殺害方法は、棒のようなもので頭を殴って殺したのではということです。
26日の朝に、生徒にはこの事件が伝えられ、泣き出す子どももいたそうです。
また、この記事を紹介した人は、「毒入り餅で犬が死亡」という事件もあったようだと述べています。(こちらは記事は拾えなかったそうです)
このことから、この人物は、この周辺には危ない人物がおり、この人物が今回話題になっている保育園でも動物を殺したり、もしくは先にご紹介した、園の先生である友人が語った話に出てくる目に包帯をしていた子どもに危害を加えたりしたのではないか?と推測していました。
インコとウサギの死 イサルキ
次にご紹介するのは、スレ主が小学校時代にあった話ということです。
当時兵庫県に住んでおり、通っていた小学校ではウサギ4匹とセキセイインコ3匹を飼っていたそうです。
校舎のとなりに飼育小屋があり、主は当時小学校2年生。休み時間のたびに飼育小屋に押しかけては、たまに飼育係の上級生と鉢合わせ、いつか自分たちも世話をしたいと憧れていました。
その後、ウサギは開校以来初となる子どもを4匹産みました。このことでより飼育小屋周辺にはよく生徒が集まっていたようです。
しかしその数日後、インコが突然謎に包まれた死を遂げることとなりました。
先生は、インコの死の本当の原因を教えてくれず、不審な死に方だったということしか分からないということです。
インコたちは、飼育小屋の中央に植わっていたインコ用の枯れ木に1匹ずつナイロンの紐を首に巻き付けて、ゆらゆらと下がっていたんだとか。
人為的な死であることは明らかですが、奇妙な点がありました。犯人が飼育小屋に侵入した形跡がないことです。
扉には2つの南京錠がかかっていたものの開いておらず、壊されてもおらず、飼育小屋の網などが壊れている部分もなく、小屋周辺の地面は固く、小屋の底のコンクリートはウサギ脱走防止のためかなり深くまであり、犯人が穴を掘って侵入したとは考えにくい状況です。
生徒たちは、この状況を確認していたところ先生に教室に強制送還されたそうです。
飼育小屋の鍵は教頭先生が職員室で保管していたとのこと。
その時、ある子が「それを誰がやったか朝見ていた」と言いました。その子は注目され、職員室に連れていかれました。
主たち生徒は自習となり、おそらくその間、その子は先生に話を聞かれていたのではないかということです。
その子は、先生や生徒からあまり信頼が厚い人物ではなく、実際に主の周りの生徒たちは「あいつんち貧乏やからあれは注目あびたかっただけだ」と言っていたとのこと。
主いわく、その子は少し知恵遅れっぽい部分があったそうで、主も信じていなかったそうです。
そのうちに担任の先生が戻ってきて、「偶然飛んでいるインコが首に紐を引っかけて死んでしまった」とあまりに信じられない説明をしました。
そういうわけで、この件は半ば強制的に終了となりそうになっていましたが、今度はウサギの4匹の子どもが死んでしまったのです。
うち1匹が紐で吊り下げられており、残りはウサギ小屋の穴の隅っこに押しつぶされていました。
インコの時と同じく、小屋の鍵や網などに異常はありませんでした。
親ウサギは特に気にする様子もなく、ニンジンやレタスを食べていたそうです。
すると、後ろの方から、インコの事件の時に「見た」と発言したあの子が「ボクは今回もみました。本当に見ました。」と大声で言いました。
しかしこの時、主は違和感を覚えました。生徒・先生の全員が、彼がまるでこの場にいないかのように無視したように感じたそうです。
普通なら、「こいつまた何か言ってるよ」と冷たいまなざしを向ける人もいるはずなのに、誰一人としてそのようなことをせず、まるっきり無視したようだったそうです。
主は、「君、本当に見たの?」と尋ねたところ、その子は「うん、僕は見た。真っ黒なんだよ。あの人は、真っ黒だった。」と言いました。
その人は黒い服を着ていたということか?と聞き返したところ、どちらかよくわからないということです。
そこで主は、どうしてその時に先生に言わなかったのかと聞きました。その子はこのように答えました。
「だってね、それは駄目だよ。だってそうしたらボクいるのがばれちゃうでしょ?イサルキにつかまったら駄目でしょ?」
そんな話を聞いたことがなかった主は、何も答えることはできませんでした。
その後、この件はよくわからぬまま、学校生活を送りましたが、主はこれ以降その子を見なかったそうです。
学校では転校する生徒は全校集会でお別れのスピーチをするようになっているものの、その子がスピーチしたことはありませんでしたが、中学進学の際、私学に進学した子の中にも公立に進学した子の中にもおらず、卒業アルバムにもいなかったそうです。
きらきらさん
こちらは、友人が「お前の話とすげー似た話が書いてあった」と言うのでまとめサイトを読みに来たというスレ主による話です。
幽霊といった得体の知れないものは信じていないという主ですが、まとめサイトを見た今、ゾッとしているとのこと。
「ヒサルキ」についての話を読みましたが、主の時は「きらきらさん」と呼ばれていたそうです。
とある施設内で、動物の惨殺死体が発見されることがしばしばあったそうです。
子どもたちに聞いてみると「きらきらさんがやった」と言うので「きらきらさんってなに?」と聞くと、両目を両手で隠して「知らない」としか言わないんだとか。
職員は、正体の分からない「きらきらさん」を不気味に思っていたそうです。
ある時、施設内の庭に子どもたちを連れだした際、主はとある男の子と手をつないでいました。
するとその男の子が小さく「あっ」「きらきらさんだ」と言い、空の一点を見つめはじめました。
しかし主には何も見えませんでした。
すると他の子どもたちも次々に「きらきらさん」に気が付いたのか、続々と空の同じ一点を見つめ始めました。空ににこにこ手を振っている子もいました。
晴天の昼下がりでしたが不気味に思えて、主は手をつないでいる男の子の前にしゃがみこみ「なんにも見えないよ?きらきらさんってなんなの?」と聞きました。
すると、男の子はやはり両目を両手で隠して「知らない」と言いました。
主は、男の子の両手を目から外して「私も知りたいなー。教えてよ」と言ったそうです。
すると、その子は突然両手の人差し指で思い切り主の両目を突こうとしました。
驚いて尻もちをつき、攻撃を免れた主でしたが、男の子は次の瞬間、突き出した両手の人差し指を同じ勢いで躊躇なく自分の両目に突き刺しました。
あまりに驚き我を忘れた主は男の子に飛びかかって押し倒し、さらに強い力で指を目に突き刺そうとしている男の子の両手を押さえ「だれかっ!だれかああぁあ!!たすけてったすけてぇぇぇ!!!」と絶叫しました。
その力は、子どもとは思えないような力だったといいます。
そうするうちに男の子は、ふいに「目が痛いよーーー!!痛い痛いよーー!」と泣き出しました。
まるで今自分を取り戻し、ケガに気が付いたような様子だったそうです。
主は男の子をすぐに病院へと連れていき、失明は免れたものの後遺症が残ってしまったとのこと。
主は、この時のことを集団ヒステリーかまたは空想の産物の共有みたいなことなのだろうと思っていたそうです。
しかし、「ヒサルキ」のことを知って、子どもたちの聞きなれない「造語」には立ち入ってはいけない場合があるのかもしれないと思ったそうです。
まいまい
こちらは、主が幼稚園の時に体験したという話です。
主は幼稚園の時、友達と滑り台で遊んでいた時に、友達と3人連続で滑り台のてっぺんから落ちたことがあるそうです。
正確には自ら飛び降りた状況だったそうです。
近くにいた幼稚園の先生の話によると、落ちた3人はいつも滑り台できゃっきゃ遊んでおり、当日もいつも通り遊んでいたんだとか。
すると突然、3人同時に空を見上げ、「まいまいが落ちてくる!」「まいまいだ!まいまい怖い!」などと大声で騒ぎだしたんだとか。
その後、主を含め3人の園児は滑り台の頂上の柵を超え、自ら地面に飛び降り、地面に激突しました。
親がその知らせを聞き迎えに来たものの、飛び降りた理由はさっぱり分からなかったそうです。
その日は晴天で、「まいまい」というようなものは見当たらず、親は、保育士による責任逃れのための嘘なのではないかと疑ったそうです。
しかし、幼稚園の先生が主張した、不可解とも言える飛び降りた時の理由は一貫していて、飛び降りた本人である主は、それ以来2日ほど無表情で一言もしゃべらず、親は薄気味悪く思って特に幼稚園を追求するようなことはしなかったとのことでした。
ちなみに当の本人である主は、この当時のことは全く覚えておらず、親に教えられてこの話を知ったそうです。
キヒサル
こちらは、語り手が村の年寄りから聞いた話ということです。
キヒサル(キヒザル)という話で、聞いただけなので漢字は分からないものの、話の内容からは「忌避猿」となるのかもしれないとのこと。
キヒサルという存在は、群れからはぐれた猿を狙い体に入り込み、乗り移られた猿(キヒサル)は獣を殺して肉を食うようになるそうです。
外見は猿なので、容易に猿の群れに近づいては猿を手当たり次第に殺して食べ、食欲は尋常でなくキヒサルが現れた山では獣の数が一気に減るとも言われるほどなんだそうです。
その結果、山には獣の死骸がたくさん転がるようになるため、猟師や杣(木こり)はそれでヒサルが出たことに気が付くそうです。
特に猟師は、キヒサルは共食いをするため忌み嫌っており、トラバサミや柵で捕らえようとしますが、捕らえたところでキヒサルの本体(ヌシ)は乗り移った体(クヨリ)から逃げてしまうとのこと。
クヨリは、まるで抜け殻のように中はがらんどうになっているそうです。
また、キヒサルは鉄砲で打ってもなかなか死なないので、キヒサルが出た時は猟師と杣は手分けをして山狩りをします。
キヒサルが近くにいると、サビのような臭いがするということで、近くにいると臭いで分かるんだとか。
キヒサルを見つけても触ってはいけないと言われています。
キヒサルは人ではないので道を通るとは限りませんが、火や金物の音を恐れるため、松明を持ち、半鐘や銅鑼、鍋を叩きながら山裾から山頂へと追いやっていきます。
山頂の草を刈った平地に罠を作って追い込み、木の上にあらかじめ渡しておいた油を染み込ませた布をキヒサルの上に落として捕らえ、すぐ焼き殺します。
このような方法を使うのは、ヌシの姿を直接見ると目が潰れると言われているからだとのこと。
ヒヒサル
キヒサルと似たような話に、「ヒヒサル」というものもあります。
こちらは語り手の知り合いから聞いた話ということです。
知り合いは随分と前に、山間の集落にある親戚の家に泊めてもらった際、その親戚は猟師だったものの、その時は物忌みで山には入っていなかったそうです。物忌みの理由は「ヒヒサル」を殺してしまったからだということでした。
狒々(猿の妖怪のこと)がいるのかと驚いて尋ねると、「ヒヒサル」というのは「狒々」とは異なるもので、歳を経た古猿が化けた妖怪のことだということです。その親戚の住む谷の独特な呼び名なんだとか。
「ヒヒ」や「オニサル」と呼ばれることもあるそうです。
ヒヒサルは鉄砲で打っても死ぬことはなく、山の獣を食い尽くし、最後は自ら滅ぶそうです。
一種の猿神とも捉えられており、集落の人間は手を出せずにいたそうですが、集落の赤子をさらったことがありそれ以来、キヒサルが出るとすぐに殺すようになったとのこと。
殺す際は、先にも触れた通り武器が効かないため、追い詰めたヒヒに油をかけて火を付けるのですが、親戚がその役を担ったため物忌みをしているということでした。
ヒヒサルが死ぬと、「山荒れ」といい獲物がしばらく取れないようになるということで、その時の味噌汁は山菜だけだったそうです。
語り手によると、狒々の伝承は全国にあるようだということで、「キヒサル」の話とも共通点が多いと指摘しています。
以前から「ヒサルキ」の話は山とかかわりが深いのでは?と思っていたが、このヒヒサルの話も「ヒサルキ」と関係があるのではないかと、一連の話に好奇心を刺激されると語っていました。
ヒサル
「ヒサル」という話もあります。3つあるので、まず1つ目からご紹介します。
語り手が聞いたことがある話ということで、「ヒサル」という存在についてです。
「ヒサル」は人と猿の合いの子みたいな化け物のことなんだそうです。
ヒサルは山に住んでいたが、ある日人里に降りてきて女を拉致したそうです。
その女は泣きながら水瓶が欲しいとヒサルに言うので、ヒサルは女の気を惹くため、女と一緒に山を下り、町で水瓶を買います。
その帰り道で、大きな池に差し掛かり、女はヒサルに「池の畔にある桜の木の枝を取ってちょうだい。」と言いました。
ヒサルは水瓶を背負ったまま木に登り、池に大きく張り出した枝の先端を取ろうと 手を伸ばしたところ、枝が折れてヒサルは池に落ちてしまいます。
ヒサルは岸に戻ろうとしますが、背負っている水瓶に水が入って泳げませんでした。
助からないと思ったヒサルは「こうなっては仕方がないが、ワシはお前が本当に好きだったんだ。」と叫びながら池へと沈みました。
語り手はこの話を祖父母からか子供会の集まりかで聞いたんだそうです。
もう1つの話は、語り手が小学生の頃に実際に体験した話です。
ずっとある村に住んでいる語りては、小学生の頃に一度だけ不可解な体験をしました。
友達何人かと河出ザリガニを獲っていて、捕まえたザリガニを決闘させようと一旦岸に上がった時のことです。
山から赤っぽい犬が出てきて田んぼを横切りこちらへ歩いてくるのが見えたそうです。
ヨタヨタとふらつきながら近づいてくるその犬がケガをしていることに気が付きました。
毛皮が血だらけで、頭や手足、口や目からも血が滴り、息も荒く苦しそうでした。
その犬は急に語り手たちがいる方へと頭を向けて走り出しました。
ケガをしているせいかスピードは遅いものの、騒がしく吠えることもなくひたすらフッフッと息を吐きながらジグザグにこちらに向かってきており、不気味な感じがしたそうです。
「おい!山犬がこっちに来るぞ。逃げようぜ!」
友達も慌てて川から出て靴を履き、逃げ出しましたが、犬は語り手たちを追いかけてきます。
近づいてきた犬は、足が折れ、白い骨がはみ出していました。
「ぉおい!何やっとんだ!逃げぇ!お前ら!」
怒鳴り声がしたので振り返ると、山犬の後ろから、林業をやっているおじいさんが鉈を持ってすごい形相で走ってきました。
おじいさんは、語り手のすぐ後ろで犬に追い付き、鉈を振り回して言いました。
「お前ら!村で大人呼んで来い!」
犬はおじいさんにめちゃくちゃに叩かれていましたが、吠えもせず相変わらずフッフッと息を吐きぐるぐる回っていました。
犬はよく見ると毛皮がいろんなところで破れ、赤い肉と白い骨がはみ出し、腹から内臓なのか正体不明のものが何本かぶら下がり、口は血だらけで開きっぱなしになっていて、黒っぽい小豆色の舌が垂れ下がっていました。
さらに耳は破れて取れかかり、目は真っ黒でした。潰れているのかもしれません。
そんな状態でも死なず、声も上げず暴れる犬を見ていると、小便を漏らしそうなくらい怖かったそうです。
「なにぼーっとしてるんだ。早く逃げんかい!血がかかるぞ!」
おじいさんが鬼のような形相で怒鳴り、語り手たちは村の方へ走って逃げました。
語り手と友達は村の集会所へ連れていかれ、窓から外を見ると、村の大人が犬のところに集まっていました。
しばらくして煙が上がり、すごく臭いにおいがあたりに漂ってきました。
後で聞いたところ、犬に油をかけて焼いたんだそうです。
語り手と友達は、においと先ほどの犬の姿を思い出し、便所で吐きまくりました。
その日のうちにお寺へ連れていかれることとなり、坊さんは犬を見た時間や状況を詳しく聞いてきました。
腕に包帯を巻いたおじいさんも来て、語り手たちの後にお堂に呼ばれていたそうです。
その後、おじいさんと一緒にお経を読まされたり、お札を焼いてその煙をかけられたりしました。
ようやく帰っていいと言われ、帰り際に友達が坊さんに「あの犬は何だったんですか?」と聞きました。
坊さんは「化け物に憑かれたんだ」と言いました。
その化け物は、猿を捕まえて中に入り込んでしまうそうですが、最近は猿が減り、犬にも化けると言っていたそうです。
後でおじいさんにきいたところ「ヒサル」だということでした。
土地神
語り手は田舎出身で、語り手の娘が土地神に連れていかれそうになった話ということです。
語り手の娘は小学校の低学年。語り手は、専業主婦の奥さんと入学祝いのついでに、語り手の実家に行くことになりました。
実家はど田舎で何もないけど自然は素晴らしいところで、娘は久しぶりのおじいちゃんおばあちゃんと会って楽しそうだったそうです。
3日ほど滞在の予定で、1日目は何もなく、2日目。娘がいなくなりました。
5時には帰ってくるよう言っていたものの、語り手の父の飼い犬と散歩に行き、帰ってこなくなってしまいました。
語り手の父が、母と奥さんに、近所を訪ねて力を貸してくれる人を探すよう言い、父と語り手はトラックに乗り込みました。
30分ほど経ち、数十人体制で捜索したところ、予想外にも近所の人がすぐ見つけてくれました。
娘は森の入り口の小屋付近で寝てたそうです。残念ながら飼い犬は見つかりませんでした。
娘は外傷も衣服に異常もありませんでした。
語り手の母が、手を貸してくれた人にお酒と料理を出し、語り手は一人一人にお礼を言いながら飲んでいました。
そのうちに娘が目を覚まし、語り手は軽く叱ったところ半泣きになり、奥さんが娘をなだめていた時の事。
奥さんは娘に聞きました。
「どうしてあんなところで寝てたの?」
「うーん…。わかんない」
と娘は答えます。奥さんは
「ワンコは?」
と聞きました。すると娘はこう答えました。
「お猿さんが連れて行った。」
この瞬間、語り手家族以外の周囲が、一斉に止まったそうです。
娘は、
「お猿さんとワンコと遊んでた。」
と言います。語り手の父親が掴みかかり、叫ぶように娘に
「どんな姿やった?どんな鳴き声やった?触ったか?」と矢継ぎ早に質問します。そうして
「アレがでよったかもしれん…。〇〇さんを呼べ…。」
と言い、それを聞き、母がどこかに電話をかけ始めました。父は
「みんなはもうええ。ここからはうちの問題。ありがとうな。」
といい、手伝ってくれた方々はそそくさと帰っていきます。
父は猟銃を持ってきて、塩とお酒をそこら中に撒き始めました。母が
「〇〇さん。30分ほどで来てくれる!」
と言い、父は、
「〇〇(語り手の名前)、話がある」
と言いました。
父によると、この土地には土地神がおり、その土地神は様々な富を落とすとも言われているが、いい神様ではなく残虐でもあるとのこと。
動物に憑りついて、他の動物の臓物を食い散らかすんだそうです。
猿の姿で目撃されることが多いが、猪や人間も例外ではないんだとか。
至近距離で接触して生きているケースは珍しいそうで、接触した者が生きていればまた向こうからやってくることが多いのだそうです。
語り手は苦笑い、奥さんはどうしていいかわからず困っていたところ、母が電話で呼んだ〇〇さんが到着しました。以後、Aさんと呼びます。
Aさんはスーツを着て品がある年配の女性でした。
父と語りてで状況を説明したところ、Aさんは
「助かるかもしれません…。おそらくアレなのは間違いない。でも、幸いなことに接触してない。この年頃だと好奇心が旺盛なんだけど、この子自体勘がいいのかもしれない。」
と言いました。
語り手は、何をするのか、娘は大丈夫なのかと尋ねますが、Aさんは、信じてないのは仕方ないけど、今は騙されたと思って手伝ってほしいとのことでした。
Aさんと母親は一緒に準備を始めると、Aさんが
「娘さんの髪の毛がほしい。それもできるだけ多く欲しい。」
と言いました。語り手は断ったものの、普段は大人しい奥さんが強引に娘の髪を切ったそうです。さらにAさんは
「もしもの時の変わり身が必要。先に言うが、その人が必要になる時は、変わり身自体が何の効果も持たないかもしれないほど危ない状況。もちろん両方死ぬと思うが、それでもいいなら変わり身を立てる。」
と言います。さらに、変わり身となる人物には以下のような条件があるとのことでした。
- 血縁者
- 娘と同じ性別
- 歳が近い
ただ、別に守らなくてもよいとのことでしたが、家族全員で話し合い、奥さんは折れなかったので、変わり身は奥さんがやるということになりました。
もしもの事があれば、二人同時に失ってしまうことになる語り手は怖かったそうですが、奥さんに説得されたそうです。
娘の髪の毛と奥さんの髪の毛を袋に入れ、Aさんが取り出した紙を入れ、お経のようなものを唱え始めます。
それを奥さんが持ち、Aさんは家の柱という柱に文字を書いたり紙を貼ったりしました。
しばらくは異変もなく時間だけが過ぎ、娘は相変わらず寝ていましたが、深夜を回ったあたりで異変はおきました。
外で何かの鳴き声がします。文字にすると「うぉもーす うもーす うぉもーす」という感じの唸り声のような鳴き声だったそうです。
Aさんはバタバタし始め、父は真剣な顔で猟銃に弾を込め始めました。
Aさんはお経を唱え始め、奥さんは娘を母に預けました。
唸り声のような鳴き声が近づいてきて、奥さんが
「ヴヴヴヴヴヴヴ」
と突然唸り始めます。窓や壁に何かがドンドン当たる音がします。
後から、この時当たってたものは犬の死骸の一部だったそうです。
お経に唸り声に鳴き声で、とても恐ろしい空間になっていました。Aさんは
「今から、誰も一言も話さないでください。それと、娘さんの口をタオルか何かでふさいでください。今は何をしても起きませんが、念のためにお願いします。」
と言いました。誰も一言も話すなと言われたものの、奥さんはすでに唸っている状況です。
「ヴぉもーす ヴぉもーす ヴヴ」
と鳴き声が家の前で止まり、一定だった鳴き声が乱れ始めました。
赤ん坊のような声が玄関から聞こえ始め
「あけてー あけてー あけてー もうず」
という声がひたすら繰り返されました。声の主は玄関から離れようとはしないものの、ノックもしません。
いつの間にか奥さんは唸るのをやめていて、ゆらゆら揺れていました。
「あけてー あけてー」
10分くらい続いたものの、次第に鳴き声は聞こえなくなり、5分後くらいには静かになりました。
奥さんはいつの間にか、座ったまま寝ていたそうです。
Aさんによると、奥さんと娘はおそらく大丈夫だが、もうこの土地には帰ってこないようにと言われました。
また、深い山にも今後は一切入らないで、あれは諦めが悪いからと言っていたそうです。
また、語り手が粘ってAさんに詳しく聞いたところ、あれは、言い伝えや呼ばれ方は様々だが、一貫しているのは山に住み、動物を喰らうこと。
動物に憑りついて山を徘徊し、憑りつかれた動物は次第に腐っていき、腐り切る前に別の器を探すんだそうです。
残虐で決していいものではないが、同時に恵や富をもたらすとも言われており、あれが住む場所はそういう因果があるのではないか?ということでした。
人をさらうこともあるそうで、憑依するのか喰うかはわからないとのことでした。
じいちゃんちの神様
語り手の祖父の家で起こった出来事の話です。
語り手の祖父母の家は田舎にあり、語り手は子どもの頃よく遊びに言っていたんだとか。
語り手が小学5年生の夏休み。2歳下の弟と祖父の家に毎年恒例の1~2週間のお泊りにいきました。
小学生の兄弟ということで、祖父母の家の障子を破ったり、クレンザーを巻き散らかしたりと、かなりいたずらも多かったそうです。
両親には激怒され、出入り禁止にされそうになったこともあるものの、祖父母は兄弟をとてもかわいがっていて、出入り禁止にしないよう説得してくれたんだとか。
祖父の家の裏には畑があり、その隣にちょっとした林があって、その林の真ん中には池がありました。
弟が釣りが好きで、よく近くの湖で鯉を釣ってきてはその池に入れていたそうです。
どんどん鯉を釣ってきては池に入れていたものの、池が鯉でいっぱいになることはありませんでした。
祖父が言うには
「猫が食べちゃうんだよ」
ということでした。
ある日、弟が森の池を釣り堀に見立てて釣りをしようと言い出しました。
祖父母には、裏の池には絶対一人で行くなと言われていたので、語り手は釣りには興味がなかったものの、弟についていくことにしました。
語り手の家は熱心な仏教徒だったので、無益な殺生はタブーとされており、釣りをするとキャッチアンドリリースか、食べるかにしていました。
弟が1匹鯉を釣り上げたので、語り手が
「鯉に洗剤かけたらどうなるか実験しようぜ」
と提案し、弟も悪乗りで賛成したので実験した結果、鯉は死んでしまいました。
少し罪悪感がありましたが
「ほっときゃ猫が食べるだろ」
と思った語り手は、そのまま放置して帰ることにしました。すると弟が
「兄ちゃん、猫が鯉を食うとこ見ようぜ」
と言ったので、2人で近くの茂みに隠れて様子を見ることにしました。
しばらくすると、林の奥側にある一番でかい木ががさがさと音を立てまし
突然、隣の弟が
「・・・猿」
とつぶやきました。
木の上の方を見上げると、何かがいました。猫にしてはでかく、今思い返すと、夏の割にやけに毛深い獣でした。
その獣は、木の上から地上に向かって木の幹にへばりつくように頭を下にして降りてきます。
爬虫類のような、嫌な感じの動き方でした。
その、よくわからない獣はゆっくりと池に向かって歩いてきます。
いつの間にか体が震えていることに気付きましたが、隣を見ると弟も真っ青な顔で震えています。
生き物が近づくにつれ、その獣が何か人の声のような感じでつぶやいています。
「・・・もの。・・・もの。・・・もの。・・・」
逃げ出したくてたまらない気持ちになっていると、その獣が近づいてきて、顔と何をつぶやいているのかがはっきり分かりました。
獣の顔は人の顔をしていて、乳幼児のような顔で無表情でした。
「・・いきるもの。・・そだてるもの。・・かりとるもの。」
「・・いきるもの。・・そだてるもの。・・かりとるもの。」
とつぶやいていました。
鯉のところまで来た獣は、鯉を見下ろして、ニタリ、といやらしい笑みを浮かべ
「これで・・・できる。」
といい、鯉には手を付けず帰っていきました。
語り手と弟はしばらく動けず呆然としていて、我に返るといつもは使わない裏口への抜け道ルートを使って林を抜けて家に帰りました。
いたずら好きの兄弟でしたが、さすがにこの出来事に参っており、夕食の時には元気がなく、飯ものどを通りませんでした。
心配した祖母は
「どうしたの?」
と聞いてきましたが、何にもないよと答えるしかありませんでした。
しかしそんな中、弟は耐えきれなくなったのか
「ねぇ兄ちゃん、やっぱりあの猿・・・」
と口に出してしまいました。その瞬間、祖父が顔色を変えました。
祖父は怒ったように、
「どういうことだ」
と問い詰めてきました。
語り手と弟は観念し、昼間に起こった出来事を話しました。祖父は祖母と顔を見合わせ、心配そうな顔で
「気分はどうだ、なんともないか」
としつこく聞いてきました。
そして祖父は、どこかに電話をかけ始めます。
語り手と弟は玄関口に出され、祖母に瓶の酒を嫌というほど浴びせられ、砂かけ遊びのように塩をまかれました。
電話を終えた祖父がやってきて、とても真剣な表情で
「もうお前たちをこの家に上げるわけにはいかん。俺たちが生きている間は決してこの家には来るな」
と言いました。突然のことに弟は
「どうして?どうして?」
と言って泣きわめきました。語り手もとても悲しみました。
語り手と弟が落ち着くと、祖父は
「それはな、お前らがこの土地の守り神を怒らせてしまったからだ。守り神っていっても、うちにおる仏さんみたいな優しいもんじゃない。」
といい、語り手たちに説明してくれました。
昔、この土地に住み着いた先祖が神様に生贄を捧げ、末代の祟りと引き換えに富を手に入れたそうです。
語り手の家で殺生が禁じられていたのは、仏の教えというより、その神様に付け入る隙を与えないためでした。
もし神様を起こしてしまった場合には、誰かが犠牲になってこの土地に縛られ、祟りを受けて鎮めなければならないということです。
その話の後、祖父は
「今夜だけは帰れん、けど安心しろ、じいちゃんたちが守ってやるから、明日朝一番に帰るんだ」
と言い、その日だけは泊まることになりました。
そのうちに、祖父が電話をしていた相手がやってきました。知らない女の人で、見た目は普通のおばちゃんでしたが、後から聞いた話によると、土地ではかなり有力な霊能力者ということでした。
そのおばちゃんは、語り手と弟を一目見るなり
「あら、これは大変なことになっちょるね。ともかくこれをもっときなさい」
と言い、お札を1枚ずつくれました。
祖母は仏間に兄弟を泊める準備をしていたようです。
仏間は小さな部屋で、1つだけある窓は新聞紙で目張りされていました。
布団が2つと、普段はないテレビ、お菓子などの食料が用意されていました。
祖父は
「いいか、これからお前たちは2人だけで夜を越えなければいかん。その間、じいちゃんもばあちゃんもお前らを呼ぶことは決してない。いいか、なんと言われても、絶対にふすまは開けるなよ。」
と念を押しました。怖かったので、祖父母に一緒に寝てほしいと思っていましたが、そうはいかないようです。
2人だけで寝ることになり、始めはテレビを見たり話したりして過ごしていましたが、だんだんと疲れが出てきていつの間にか眠ってしまいました。
ふと目が覚めました。何時ごろかはわかりませんが、まだあたりは暗い様子です。
なぜ起きたんだろうと思っていると、外でがさがさと物音が聞こえます。
「・・・もの。・・・もの。・・・もの。・・・」
「・・・もの。・・・もの。・・・もの。・・・」
心臓が一気に縮み上がったような感じがして、こめかみの血管が脈打っていました。
そのうちに、窓ガラスが叩かれるようになりました。コンコンという音とともに、
「・・・さい。・・・さい。」
と聞こえます。弟の方を見ると、いつの間にか起きて真っ青な顔をしていました。
「兄ちゃん、あれなんだろ。怖いよ」
と震えています。
語り手は弟のそばへとより、窓の声へと集中しました。
「あけてください。・・・あけてください。」
と言っていました。人間の赤ちゃんの声色でしたが、窓の外の影はとても幼児のようではなく、人間でもありませんでした。
しかし、その声を聞いているとそのうちに、「こいつも必死なんだな」というような妙な気分になってきました。
「ダメだよ、兄ちゃん!」
と弟が言い、ハッと我に返りました。
なんといつの間にか窓へ近寄り、開けようとしていたのです。
一気に恐怖が戻ってきて、そのまま這うように弟のところへ戻って、今度はひっしと抱き合いました。
そのまま、まんじりともせず朝を迎えました。
とんとん、とふすまを叩く音がして
「じいちゃんだぞ、なんともないか、無事か」
と声をかけてきたので、すっかり疑心暗鬼になっていたものの、朝日も差し込んでおりこちらから開けなければ大丈夫だろうと思って
「無事だよ」とだけ答えました。
するとふすまが開いて、祖父母と霊能力者のおばちゃんと両親が入ってきました。おばちゃんは
「よう頑張ったたい、とにかく無事でよかった」
と言ってくれました。
お札は白から鉄さびみたいな色になっており、なぜかもとの半分ほどの大きさしかありませんでした。
それから語り手と弟は実家に戻り、二度と祖父母の家を訪れることはありませんでした。
その後は、霊能力者のおばさんに何度か実家に来てもらったりしていたそうです。
月日が流れ、語り手が高校1年生の時、祖父が亡くなったと連絡がありました。
死因は話してもらえず、母親にあの時の獣との関係を問いただしましたが、だんまりで答えてもらえませんでした。
祖母は、緩やかに痴呆が進んでいるらしいとだけ聞いたそうです。
猿を見たら目を隠して逃げろ
とある島に住んでいるという語り手の経験した話です。
小さい時から祖父母に「山には一人で行ってはいけない。もし山で猿を見たら目を隠して逃げろ。そして私たちに報告しろ。」と何度も言われてきました。
ある時、近所の大きな鉄塔(7mくらい)の先に犬が刺さっていたことがありました。
語り手の親が発見し、すごい勢いでそこら中に電話をかけていたそうです。
さらに、田舎にはよくある防災無線でも「必ず戸締りは確実にすること、21時以降は外出を絶対しないこと、外に明かりは漏れないようにすること、鱈の頭のミイラを玄関先に必ずぶら下げること」というような放送がありました。
語り手は当時高学年であり、平凡な田舎で久しぶりの非日常的な刺激に興奮していました。
親や祖父母にいろいろと質問をしたものの、適当に濁され何一つ教えてもらえなかったそうです。
普段は1人で部屋で寝るものの、その日は親子4人で同じ部屋で寝ることになりました。
しかし、語り手はみんなが寝静まっても寝付くことができず、夜中にトイレに行きました。
電気は付けるなと言われていたので、付けずに廊下を歩きトイレに入りました。
しかしそこで、いつもの癖でトイレの電気を付けてしまったのです。
すると外から
「ギィィィィイイ!」
「あ”あ”あ”ぁぁぁあ”!」
というような叫び声がしたので、語り手は一目散に叫びながら部屋に戻り、漏らしてしまいました。
親が起きて、語り手を抱きしめながらお経を唱えていました。
次の日、学校を休むよう言われ、祖父に寺に連れていかれた語り手は坊主頭にされました。祖父は
「〇〇〇〇の声を聞いて坊主ならやすいもんだ」
と言っていたそうです。(○○○○は多分4文字だったことは覚えているものの忘れてしまったそうです。)
次の日学校に行くと、何人も坊主になっていて笑ったそうです。
祖父が言うには、次のような存在だということです。
猿によく似た物の怪の類で、神に近いものでもあるそうです。島には猿は1匹も生息していないそうです。
生きている人は誰も姿を見たことがなく、見ると目が潰れるとも言われているそうです。かなりの女好きで、女に憑りついては悪さをするんだそうです。憑りつかれるのは伝染するとのこと。
鱈は魔除けと贄の意味があり、鱈の頭に気を取られて中に入ってくるのを防ぐ意味合いがあるそうです。
町に伝わっている踊りでは、鱈の頭を被った踊り子(紙の使い)が出てくるそうです。
奉られているのは山神で、舞う人は獅子と呼ばれているものの、顔は猿っぽいんだとか。
刺さっていた生物は何かの合図であり、その生物が大きいほど危険なんだそうです。
呪いの伝播を防ぐために、基本的に島外に話を出さないようにしているということでした。
ヨウコウ
猟師の祖父を持つ語り手の話です。
語り手の祖父は猟師であり、遊びに行くといつも語り手を猟に連れて行ってくれたんだそうです。
その日も祖父は鉄砲を肩に背負い、語り手と山道を歩いていました。
「今日はうんまいボタン鍋くわしちゃるからの!」
実際には撃ったばかりの猪を食べることはないものの、そんなことを言っていたそうです。
すると、何か動物がいるような、ガサガサというような物音がしました。
普段から、そのような時はすぐ祖父の後ろに隠れるように言われていた語り手は、祖父の後ろに回って様子を見ていました。
しかし祖父は一向に撃つ気配を見せません。
いつもなら、後ろに隠れた筆者を置いて「待てー!」と走っていってしまうほどなのに、鉄砲を中途半端に構えて固まっていました。
語り手はまだ背が低く、茂みの向こうにいる動物であろうものの姿はよく見えませんでした。
気になった語り手は、祖父に
「何?猪?タヌキ?」
と聞きました。しかし祖父はしばらく黙っており、茂みの向こうをじっと見ていました。
「あれは・・・」
そう祖父が口を開いた瞬間、茂みが急にガサガサと音を立てました。
「やめれ!」
祖父はその茂みに一発撃ちこみ、語り手を抱えて猛ダッシュで逃げ出しました。
何が何だか分からない語り手は怖さで泣きそうになりながらも、祖父が撃ったのはなんなのか気になり後ろを振り返りました。
遠目に見ると、毛のない赤い猿のような動物がこちらに走ってきていました。
祖父は語り手を抱えて走りながらも鉄砲に弾を込め、振り向きざまに発砲しました。
すぐ隣で発砲音を聞き、語り手の耳は「キーン」となったそうです。
祖父は走りながらまた弾を込めています。
語り手は怖くて後ろをまた振り返ることはできませんでしたが、後ろで
「ケタタタタタタ!ケタタタタタタ!」
と、その動物の鳴き声のような声が聞こえ、祖父は小声で
「助けてくれ・・・助けてくれ・・・この子だけでも・・・」
とつぶやいていました。山をおりきっても止まらず、祖父は語り手を抱えて家まで走りました。
家に着くなり、祖父は祖母に
「ヨウコウじゃ!!」
と叫びました。
祖母は真っ青な顔で台所へ飛んでいき、塩と酒を持ってきて、祖父と語り手に力士が塩をまくように塩をかけ、ビールかけのように酒を頭から浴びせました。
その後は、祖父も祖母も何も話してくれませんでした。
まもなく祖父が亡くなり、その時祖母が語り手に「ヨウコウ」について話してくれました。
「〇〇ちゃん(語り手)が見たのはのー、あれはいわば山の神さんなんよ。
わしらにとってええ神さんじゃないがの。
じいちゃんはあんたのかわりに死んだんじゃ。
お前は頼むから幸せに生きておくれよ。」
祖父が亡くなって、祖母も後を追うように無くなってしまったそうですが、語り手は20代後半でぴんぴんしているそうです。
福井県の某村の話ということでした。
ヒサユキ
最後にご紹介するのは「ヒサユキ」にまつわる話です。まずは、3人の語り手が語る、つながった体験談からご紹介します。
まずは1つ目です。女性の語り手が体験した話です。
昔、霊が見えていた時期があるという語り手は、見ようと思って見えるわけではなく、語り手の気分や事情に関係なく見えてしまうので困っていたんだそうです。
ひどい時は普通の人間と霊が区別がつかないくらいはっきり見えるので、普通の人と霊が見分けられないこともあったんだとか。
そのため、霊と知らずに近づいてしまい、変な波長やオーラをもらってしまうこともあったのだとか。
体調を崩していた時期もあり、人付き合いも苦手だったそうです。
しかし大学に入って地元を離れ、そういう体質が少し改善されるようになりました。
サークルでバンドを始め、少し自分に自信が持てるようになり、かなり日常的な生活を送っていた時のことです。
ある日そのサークルで合宿に行くことになりました。海辺に泊りがけで遊びに行くような合宿です。
友達と泊りがけで遊びに行くのが初めてだった語り手は、とても楽しみにしていたそうです。
当日は良い天気に恵まれ、3台の車に分かれて出発し、車の中では会話が弾んで楽しい雰囲気でした。
しかし途中から、語り手はBGMのCDが気になり始めました。
アルバムのはずなのにさっきから同じ曲ばかりが再生されているような気がして、無機質なシンセ音が延々続き、語り手は気分が悪くなって次第に無口になってしまったそうです。
「酔ったの?」
と友達が声をかけてくれたので、CDのことを言うと、助手席の子がデッキを見て
「別にリピートになってないし、気のせいだろ。」
と言いました。
しかしながら、相変わらず同じ曲が繰り返されていて、今度はなんだか怖くなってきました。
熱海に着くと、海でしばらく遊びました。語り手はベンチに座ってぼんやり水平線を見ていたものの、めまいがしてきたので車の中に戻り、うつらうつらしていました。
その時、良くない夢を見たのか、目が覚めると汗びっしょりになり、全身がだるかったそうです。エアコンはかけて寝ていました、
その頃にはかなり鬱になっていました。せっかく友達と遊びに来たのに、体調が悪くて楽しめないと思っていました。
その後みんなで民宿へ向かいましたが、語り手はどんどん気分が悪くなり、その頃にはほとんど口も利かずに窓の外を眺めていました。
車を少し離れた駐車場に置き、民宿へ行こうとすると、その時なんとも言えない悪寒に包まれました。
民宿の前まで来た時には、耐え難いほどになっていました。
語り手たちが泊まる建物の横に大きな小屋のような建物があり、そこから視線のようなものを感じました。
見たくなかったものの、ついその建物をじっと見てしまい、2回の小さな窓から誰かがこっちを見ています。
パッと見た感じ男の人のようで、体が青い光を放ち輪郭がぼんやりしていました。
これは人間ではないと思いました。窓は小さいはずなのに、窓枠周りの壁を通して、体全体が見えていました。
こっちを見る視線はすごく嫌な感じがしていて、語り手たちが来たことを歓迎してはいないような感覚が伝わってきたと言います。
語り手は限界を迎え、みんなにここはやばいと説明したものの納得してくれませんでした。
しかしながらこの民宿に留まることはできなさそうだった語り手は、みんなに別れを告げて電車で帰ることにしたのです。
幸い駅が近くにあるということで、民宿の人に駅まで送ってもらうことができました。
しかし電車に乗っても、語り手はまださっきの視線を感じていました。全身の悪寒も続いており、体はぐったりと疲れていて、ついつい居眠りをしてしまったそうです。
するとまたうなされていたようで、語り手は隣のおばさんに揺り起こされ、車掌さんも心配して、駅に着いたら病院に連絡するよう駅員の人に伝えようかと申し出てくれました。
一刻も早く家に帰りたいと思っていた語り手は、その申し出は断りました。
駅に着いてタクシーに乗り、自分のアパートまで戻り、部屋に着くとお香を焚き、玄関や窓辺に塩を盛りました。
食欲はなかったので、シャワーを浴びて倒れ込むようにベッドに横になりました。
眠るのは怖かったものの、体が睡眠を求めているような感じがして眠くてしょうがなかったそうです。
電気とテレビをつけっぱなしにして眠ることにしました。
その日、夢を見ました。語り手がベッドに横になっていると体の中に悪寒が染み込んできて、体にぴったりと収まりました。
体が二重になったような感じで、自分の意志では体を動かせませんでした。誰かが語り手の体を動かして立ち上がりました。
電気とテレビを消し、着替えをして部屋の外に出ると、あたりは真っ暗で、アパートの近くに男が1人立っていました。
それはあの民宿の隣の小屋からこちらを見ていた男だと分かりましたが、今は普通の人のように見えて青い光も見えませんでした。
語り手は気が狂いそうなほど怯えていたものの、語り手の体は男の後をついて行ってしまいます。
しばらくすると夜が明け、国道沿いを歩いていた語り手と男の前に一台の車が止まりました。
車の中にはジャージの上下を着た男がいて、語り手はパニック寸前だったものの、語り手の体は当然のように車に乗り込んでしまいます。
語り手と男を載せた車は走り出し、想像通り、例の建物に着きました。
この頃、だいぶ体の自由が戻っていた語り手は、両手をテープでぐるぐる巻きにされ、口もテープで塞がれ、頭からタオルを被せられて2階の部屋に連れ込まれてしまいました。
部屋の中は殺風景で、布団や小さなテーブル、冷蔵庫くらいしかありませんでした、何か生臭いような臭いが漂っていました。
部屋に入ってすぐ、語り手は服を脱がされ手錠をかけられました。どんな目に遭わされるのだろうと考えて恐ろしくなったものの、男たちはさっさと出て行ってしまいました。
しばらくすると階上で大きな音で音楽が鳴り始め、踊っているのか、足踏みをするような音も聞こえてきました。
聞いているうちに何だか気分が悪くなり、吐いてしまい、みじめな気分でずっと泣いていました。
やがて最初に部屋に来た男が戻ってきて、語り手が吐いた跡を見ていました。
怒られるのかと思ったものの、急に男が顔を寄せてきて反射的に壁の方に逃れたところ、壁で思い切り頭を打ってしまい床に倒れました。
男は顔を覗き込んで、口の中に指を突っ込んできたので、必死で抵抗しました。
無理やり口を開かされ、男の指が口の中で何かを探すように動いていて、吐きそうになったものの胃に何も残っていないのか、オエッとなるだけで何も出ませんでした。
本気で嫌になったので、口の中の指を噛むとさサッと引っ込みました。口の中はなんだかヌルヌルした物が残り、それが生臭く、その日は食事も喉を通らなかったそうです。
食事は車を運転してきた男が運んできて、すぐ部屋から出ていくので、最初に来た男と2人で食事をするものの、語り手は手錠をはめられていてうまく食器が使えない状況でした。
遠くの皿には手が届かないので、そんな時は男が皿を寄せてくれるものの、男は口が利けない様子で時折唸り声のような声を上げながら皿をこっちに押しやってくれたそうです。
男はスプーンやフォークはうまく使えない様子で、手を使って物を食べていたので日本人ではないのかと思ったものの、もう1人の男は彼を「ヒサユキ」と呼んでいたのでやはり日本人かと思ったそうです。
食事の量は2人分にしては多く見えたものの、不思議と全部食べられていたそうです。
男たちは毎日連れだって外出するものの、ドアにカギをかけていくため出ることはできず、声を上げようとしても、元々大きな声を出すことが苦手な上、のどが絞られているような感じがして声が出なかったそうです。
さらに、男たちが外出している間は音楽がフルボリュームで鳴っており、物音を立ててもかき消されてしまう状況でした。
その音楽を聴いていると気分が悪くなってきて、立ち上がるのもつらくなってしまいます。
服も脱がされていたので、見られてしまうと怖いので窓を開けることもできなかったそうです。
男たちはというと、語り手を襲ったりするようなことはなく、動かしたい時に手を掴んで引っ張るような程度で、普段は触れてくることもなかったそうです。
どちらかと言うと、触れるのを避けているような感じでした。
新聞も無く、テレビも無く、食事以外の時間はひたすらぼーっとして過ごしていたそうです。
最初のうちはよく泣いていたものの、いつのまにかあまり涙も出なくなっていました。
辛い気持ちはあるものの、なんだか他人事のように思えてきていました。今は、普段何をしていたかほとんど覚えていないそうです。
そんな生活の中で、一番いやだったのは眠ることでした。寝るときにはヒサユキが私の横にぴったり身を寄せてくるのです。
最初はそれが気持ち悪くなかなか眠れなかったものの、やがて眠ってしまいます。
すると夢の中で、何か得体の知れない影のようなものが、語り手の体を乗っ取り、そのまま外を出歩きます。
夢の中でも裸で、すごく恥ずかしいと思うものの、相変わらず体はいうことをききませんでした。
夢の中の語り手は、悪いことをしていたそうです。動物を殺したり、人の家に物を投げ込んだり、魚を盗んで撒き散らしたりしていました。
一度、道で犬を殺して死体に顔を突っ込む夢を見たことがあり、その時はあまりのことに夢の中で意識が飛んでしまったそうです。
気が付くと朝になっていて、あたりがなんとなく生臭いにおいがするような気がして、その場で吐いてしまいました。
顔を洗いに行ったところ、口に血が付いていたそうです。
夢は本当のことだったのかと真剣に怯えたものの、確認はできないのでわかりません。
それからも似たようなことが何度かあったそうですが、確認もできずどうしようもありませんでした。
夜中に目が覚めると、男の顔が目の前にあることがよくあったそうです。
男の目は必ず開いていて、語り手を見ているものの、語り手を見ていないような、変な感じで見つめていたそうです。
語り手は気持ちが悪いので目を逸らそうとするものの、体を乗っ取られていてできませんでした。
しばらくヒサユキの顔を見せられてから、語り手の体は冷蔵庫に向かい、冷蔵庫の中からハムや卵、干物などを取り出してそのまま食べます。
見ていると気持ちが悪いものの、おいしいという気持ちがわいてくるのが恐ろしく、自分の体が別の物になって、私の意識はどんどん小さくなるような感じがしました。
そんなことが起こるのは最初は夜だけだったものの、だんだん昼にも同じような感覚になるようになりました。
冷蔵庫の中の物を食べた語り手の体は、ヒサユキのところにも同じものを持っていきます。
ヒサユキは、食べ物を目の前に置いてもピクリとも動かないものの、朝になると卵の殻や包装のビニールが目の前に転がっていたそうです。
どのくらいこの生活が続いたかわからなくなり、ヒサユキはだんだんと部屋から出ることが減り、あまり動かなくなっていました。
もう一人の男が無理やり連れだしており、何かを必死で頼んでいる風だったそうですが、よくわからない言葉を話していて何を言っていたのかは分からなかったそうです。
男たちはだんだん狂っているように見えましたが、語り手も記憶が飛んだり、操られている感覚が続いていたり、口が利けなくなったりとおかしくなっていたそうです。
ある日、語り手が気が付くと外にいて、服を着ていました。
夢だと思っていたところ、人がやってきて「大丈夫か」と聞いてきたそうです。
その時乗っ取られていた状態だった語り手は、暴れたそうです。
嬉しいと思ったものの、語り手の体を操っているものが抵抗していて、相手をやっつけたいと思っている感じだったそうです。
結局、何人かに取り押さえられ病院へと運ばれ、警察や医者にいろいろと質問されたものの、語り手は口を利くことができず、それどころか気を抜くと暴れたくなってしまうので、必死に抑えていました。
しかし、体が別の物になっている感じはもう無く、語り手の母親が合いに来てくれてすごく嬉しくてやっと涙がでました。
操られている感覚は、スーッと弱くなったそうです。
その後しばらく入院することとなり、外傷性のストレス障害と診断されました。
結構ボロボロの状態であり、最初は喋れなかったものの、1か月くらいで親と先生とは少し話をすることができるようになりました。
しかしながら、誘拐されたことは話さなかったそうです。話すとまた乗っ取られるような予感がして、話す気になりませんでした。
時々暴れたりもしたものの、今は大分回復し、あの夢も見なくなりました。
そこで、母親にだけは、誘拐や夢について話したそうです。
語り手の考えでは、ヒサユキという男はもともと口を利けなく、体も動かせなかったのではないかということでした。
語り手を乗っ取っていた何かがヒサユキを動かしていたのではないかということです。
続いて、この話の語り手のサークルの友人ではないかと思われる男性の体験談をご紹介していきます。
男性が昔、学生だった頃にサークルの仲間と旅行に行き、友達に聞いた安い民宿に泊まることにしたそうです。
民宿のすぐ隣には古そうな小屋のような建物があり、その建物を見て、メンバーの中の霊感強めの女の子が震え出したそうです。
「2階がヤバい。」「こっちを見てる。」
というようなことを言って、こんなところには泊まれないということで帰ってしまったそうです。
残ったメンバーで夕食をとり花火をして、退屈になってきたので隣の小屋のような建物に行ってみようぜという話になりました。
残りの女の子4人のうち2人は反対したため、男5人、女2人で行くことにしました。
行ってみると雰囲気が怖く、1階には大きな扉があり、開けると納屋のような農機具類が置いてある土間でした。
天井でゴトゴトと何かが動くような音がして、外にいたメンバーが「電気ついた、電気ついたよー。」と言い出しました。
いったん外へ出ると、上の方の窓から明かりが漏れていたので
「やばいって。」「怒られるんじゃねー。」
などと言っていると、窓が開いてにゅっと首が出てきました。逆行だったので顔は黒く見えます。
ビビっていたところ、
「おーう、そんなとこにいないで、上がって来いよ。」
と、意外にも若そうな声で言われたので少し安心し、酒もあると誘われたので、上がることにしたそうです。
1階の壁際に上に上る階段があり、始めは暗かったものの、途中の踊り場からは上からの光でほんのり明るい感じでした。
開けっ放しの扉から中に入ると、30くらいの男がテーブルの向こう側に座っていて、テーブルには料理とビールが並べられていました。
部屋の中には木彫りの置物や楽器が置かれていて、極彩色の神様や映画のポスターなんかが貼られていました。
すごく広い部屋なのに、照明が小さかったので隅の方は暗く、ほとんど光が届いていませんでした。
「まービールでも飲んでくれ。」
と男が言うので、メンバーはその男と酒を飲むことにしました。
男がインドに旅行した話や、最近の音楽の話をしたそうです。CDが大音量でかけられていたので、気になった女子が聞くと、男は「大丈夫だ」といいさらに音量を上げました。
時計を見るともう遅かったので帰ることにして、男は倉庫の入り口まで送ってくれました。
次の日の朝、朝食を食べていると民宿のおばちゃんが
「昨晩あの建物に行ったのか?」
と聞くので、行ったと答えたところ、
「何もなかったか?」
としつこく聞かれました。
帰りの車の中で、昨日隣の建物に行くのを反対して民宿に残っていた女子に、
昨日はうるさかったんじゃないと聞くとそれほどでもなかったということです。しかし、続けて次のようなことを言いました。
「あの時音楽が聞こえてきたんだ、何やってるんだろうと思って、窓からあの建物を見ていたら、明るい窓の下に小さく明かりが灯って。また消えたと思ったら1階の戸が開く音がした。」
この話を聞き、昨日男の部屋に行ったうちの1人の男のメンバーが「マジかよ・・・」と言い、話しだしました。
「あの倉庫から階段上がった時に踊り場があっただろ。あそこの壁に、分かりにくかったけど扉があったんだよ。その時はなんだろうと思ったけど別に気にしてなかった。で、帰る時にその扉がほんの少し開いてたんだ。俺、見間違えたのかな?って思ってたんだけど・・・」
「え?・・てことは俺らが飲んでたのって3階なの?」
男性はちょっと焦って聞きました。
「じゃあさ、1階に入った時、上で物音してたじゃん。あれって・・・」
思い返すと、おかしいところはいくつもありました。
男性たちが1階の倉庫のようなところに入るまで3階?の窓は真っ暗で、あの階には1つの大きな部屋しかありませんでした。
それではあの男は、男性たちが来るまで暗闇の中で何をしていたのでしょうか。
さらには一人で食べるには多すぎる料理。温かい状態でした。
誰かが来るのを明かりを消して待っていたのでしょうか?男性たちでなければ、誰を待っていたのでしょう。
なんだか気味が悪くなってきて「イヤな感じだな。」「後味悪~い。」などと言いながら帰ったそうです。
帰ってみると先に帰ったはずの女の子が失踪していました。同じアパートの人に聞くと、あの晩に部屋には戻ったものの、いつの間にかいなくなっていたということでした。
部屋に荒らされた形跡はなく、普通に買い物に出たかのような感じだったそうです。
後に、当時一緒に泊まったメンバーの1人に話を聞くと、このようなことを話していたそうです。
そのメンバーは、あの民宿を紹介してくれた友達と後に仕事上の付き合いで再会することがあり、あの建物の話をしたんだとか。
あれは元々地元の共同倉庫&集会所であり、新たな集会所ができて使われなくなっていて放置していたところ、外の誰かが土地ごと買ったんだとか。
あの男はいつの間にかあそこに住んでおり、何をして暮らしているのかは誰も知らなかったそうです。
民宿を教えてくれた友達は、この話を民宿のおばちゃんに聞いたそうで、あそこは地元の人たちと揉め事を起こしている最中なのであまり近づかない方が良いと言われたそうです。
しかしその友達は、友人を連れて夕暮れ時にその建物に行きました。
そこには倉庫の天井から魚が吊るしてあり、とても臭かったそうです。
その後、天井から大きな音がしたので、友達たちはヤバいと思い、慌てて外に出たそうです。
その夜、あの建物の方から数人の男が言い争う声が聞こえたということでした。
また、この友達とは別の友達から、失踪した女の子のその後の話を聞くことができたということです。
その友達は、女の子が失踪して1年程経った頃、失踪した女の子の母親から電話があったそうで、あの日のことについて話が聞きたいということだったので、近所の店で会って話をすることになったそうです。
失踪した女の子の母親いわく、女の子は実は失踪して1カ月後には見つかっていたそうです。
実家の近くで見つかったのですが、精神に異常をきたしていたため、学校や友達には失踪中ということにしておいたということで、話を聞いた友達もこのことは黙っておいてほしいと頼まれたんだとか。
なぜ失踪し、失踪中はどこで何をしていたのかということは、親や病院の人が聞いても何も答えなかったということですが、ただ一言「ひさゆき」という名前を一度だけつぶやいたそうです。
そのため警察は、「ひさゆき」という名前の関係者がいたかどうかを調べたものの、見つからなかったとのこと。
失踪した女の子はまだ病院に通っているものの、かなり回復しているということでした。
続いては、この失踪した女性を目撃していたのではないか?と思われる、この件には無関係の人物による情報です。
この語り手は夜に、いつものように露〇系のサイトを覗いていた時に、「何年か前に道端で全裸の女を見たけれど、その女が犬の死骸を食ってた・・・」というようなことが書かれていたのを見つけたそうです。
その書き込みでは、熱海に遊びに行っていたときに、夜に車に乗っていると外れた感じの道沿いには裸の女性が座っていたそうです。
車を停めて見ると、女性が店の横の空き地のようなところで、こちらにお尻を向ける格好でしゃがんでいました。
驚いてウィンドウを下げると、その音でこちらを向いたと思ったらなぜかこちらに向かって走ってきました。
目の前を横断し、反対側の路地に入っていった時にライトで一瞬照らされたものの、本当に全裸だったそうです。
二十歳くらいで色白で細い感じの女性だったのですが、口の周りが何か黒く見えて、なんだろうと思ったものの追いかける気にはなりませんでした。
女性がしゃがんでいたところに行ってみると、犬の死骸があり、腹部はぐちゃぐちゃになっていて、語り手は思わず吐いてしまったそうです。
この3つの話は同じ話なのではないか?とネット上で話題になっています。
ヒサルキの正体を考察
ヒサルキのいろいろなエピソードをご紹介しましたが、ここからは正体を考察していきたいと思います。
ヒサルキとは一体、何者なのでしょうか。
考察①妖怪
1つ目は、妖怪の一種であるという説です。「ヒサルキ」という名前や、猿の姿をしているというような説が多いことから、猿の妖怪なのではないかとも言われています。
得体の知れない存在ということで、正体が妖怪だというのはしっくりくる説かもしれません。
ヒサルキに関係していそうな怪談をたくさんご紹介しましたが、「土地神」や「じいちゃんちの神様」の夜のエピソードは、同様に何らかの怪異だと考えられている「八尺様」のエピソードと似通ったところがあります。
考察②神様
2つ目は、神様という説です。先にご紹介したエピソードの中にも、実際にその猿のような怪異を「土地神」や「神様」の1つだと言っている話もありました。
神様の1種であるものの、恐ろしい一面も持ち合わせているのかもしれません。
考察③寄生虫や伝染病
3つ目は、寄生虫や伝染病に侵された生物という説です。
例えば、寄生虫に脳をむしばまれておかしくなってしまった動物なのではないかという可能性も考えられます。
伝染病という説では、狂犬病の症状に少し似通った部分があるとも言われています。
狂犬病とは、人を含むすべての哺乳類に感染する病気であり、犬が感染すると性格や行動が変わってしまい、次第に目的無く徘徊したり、目に入るものに嚙みついたりする興奮状態になります。
その後全身が麻痺し、歩行不能になったり、咀嚼筋が麻痺することで下顎下垂や舌を垂らしたりするようになり、やがては昏睡状態になり死んでしまいます。
狂犬病のような何らかの精神異常を引き起こすような病気が、他に存在している可能性も否定はできません。
考察④軍の生物兵器
4つ目は、軍の生物兵器だという説です。昔、大戦中に旧日本軍が、日本に古くから伝わる妖怪「鬼」を作り出したというような噂話があります。
「鬼」を作り出し生物兵器として利用しようとしていたということです。
実験を行った結果、その鬼は関わった人々を次々に殺害して行方をくらませたという説があります。
その「鬼」が「ヒサユキ」であり、今も生き延びているのではないか?と言われているのです。
ヒサルキは本当にいるのかも…?
今回は「ヒサルキ」という謎の存在についてまとめました。
日本全国各地で「ヒサルキ」やそれに似た存在と思われる伝承があるようです。
これほどいろいろな言い伝えがあると、本当に存在していたとしてもおかしくないような気がします。
もし「ヒサルキ」のような話を聞いたら、うっかり目にしてしまわないように注意しましょう。
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